最高裁判所第二小法廷 昭和42年(オ)473号 判決 1970年5月22日
上告人
渡辺米蔵
代理人
飯山悦治
井上義男
被上告人
渡辺光淑
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人飯山悦治、同井上義男の上告理由第一点について。
原審が確定したところによれば、未成年者であつた当時の被上告人の後見人は訴外関口春であり、右訴外人は上告人の内縁の妻であつた(後に上告人と婚姻した。)ところ、右訴外人は、被上告人の法定代理人として、昭和二一年九月二八日、上告人に対し被上告人所有の本件土地を譲渡し、同日その旨の登記を経由した、というのである。そして、右譲渡が金三千円位の負担のある本件土地の無償譲渡である旨の原判決の事実認定および判断は、これに対応する挙示の証拠に照らして、肯認できるから、右認定を非難する所論は、採用できない。
右認定事実のもとにおいて本件土地の無償譲渡が旧民法九一五条四号に該当するか否かを考えるに、当時上告人と訴外人とは内縁の夫婦であり、相互の利害関係は、特段の事情のないかぎり、共通するものと解すべきであるから、被後見人である被上告人に不利益な本件土地の右無償譲渡は、上告人と後見人である訴外人とに共通する利益をもたらすものというべきであり、したがつて、右無償譲渡は、旧民法九一五条四号にいう後見人と被後見人との利益相反行為にあたると解するのが相当である。されば、右無償譲渡については、後見人である訴外人は被上告人を代理することができないのであるから、未成年者たる被上告人の後見人である訴外人が被上告人を代理して訴外人の内縁の夫である上告人に対してした本件土地の無償譲渡行為は、無権代理行為である、とした原判決の判断は、正当であり、右判断には所論の違法はない。論旨は採用できない。
同第二点について。
かりに所論の事実があつたとしても、それがため、上告人に過失がなかつたとはいえない。されば、論旨は採用できない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(草鹿浅之介 城戸芳彦 色川幸太郎 村上朝一)